嚥下障害とは、疾病や老化などの原因により飲食物の咀嚼や飲み込みが困難になる障害をいいます。通常私達は、咀嚼した食物を舌を使って咽頭へ送り、嚥下します。その時、軟口蓋が挙上することで、口腔と鼻腔が遮断されます。また、喉頭蓋で気管へ蓋をし、嚥下の瞬間だけ開く食道へと送り込みます。これらの複雑な運動に関わる神経や筋肉に何らかの障害が生じた場合、嚥下障害となる訳です。
(図−1) | ◆鼻腔(びくう) ◆軟口蓋(なんこうがい)・・口の天井の骨が無く軟らかい部分。 ◆上顎骨(じょうがくこつ)上あごの骨 ◆口蓋垂(こうがいすい)・・いわゆるのどちんこ ◆舌(ぜつ) ◆舌尖(ぜっせん)・・舌の先端部分 ◆口唇(こうしん)・・くちびる ◆下顎骨(かがくこつ)・・下あごの骨 ◆喉頭蓋谷(こうとうがいこく)・・奥舌と喉頭蓋の間にあるくぼみ。嚥下の際、食塊を一旦溜める重要な場所。 ◆喉頭蓋(こうとうがい)・・嚥下の瞬間、喉頭の蓋になる非常に重要な場所。 ◆舌骨(ぜっこつ)・・舌と喉頭を繋ぐ役割の骨。喉頭の挙上に重要な役割を担う。 ◆食道入口部(しょくどうにゅうこうぶ)・・食道の入り口。通常は閉じている。 ◆声帯(せいたい)・・発声を行う器管。同時に誤嚥防止にも役立っている。 ◆食道(しょくどう)・・食物の通り道。通常は閉じている。 ◆気管(きかん)・・空気の通り道。嚥下の瞬間以外、常に空気が通っている。 |
(図−2) 食物が口腔内に入ると、まず咀嚼をして食物を飲み込める状態にします。 この飲み込める状態になったものを食塊といいます。 上手く咀嚼を行い食塊をつくるためには、咀嚼するための「歯」があることはもちろんですが、それと同時に舌や頬の運動も必要です。舌や頬に運動障害や感覚麻痺があると、食塊をつくることが難しくなります。また、口唇がきちんと閉鎖出来ないと、口腔内から食物がこぼれてしまいます。 拡大図 |
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(図−3) 咀嚼がある程度完了したら、舌を使って食物を咽頭へ送ります。 この時に重要なのが舌尖の挙上です。舌尖を挙上して上顎に付けることが出来ないと、咽頭への送り込みがうまくいかず、いつまでも口腔内に食物が残ってしまいます。この時にも口唇の閉鎖は重要です。口唇閉鎖ががきちんと出来ていないと、食塊を後方へ送ることが困難です。。 また、この時軟口蓋は上へ上がるのと同時に後方へ膨らみ、口腔と鼻腔を遮断する準備をします。 拡大図 |
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(図−4) 舌は口蓋にしっかり付き、舌骨が引き上げられ、喉頭が上前方へ移動し、そのため喉頭蓋が後方へ倒れます。軟口蓋は口腔と鼻腔を遮断しています。この時口腔と鼻腔の遮断がきちんと出来ないと、食物や水分が鼻腔に逆流してしまいます。嚥下の際、呼吸は停止します。 拡大図 |
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(図−5) 舌全体が口蓋にしっかり付きます。そのため舌骨は更に上方へ引き上げられ、喉頭は更に上前方へ移動し、結果的に喉頭蓋は気管へ蓋をするような形で倒れます。また喉頭が上前方へ移動することで、喉頭の後方にある食道入口部が開き、そこへ食塊が押し込まれます。この時に喉頭が上前方へ十分移動出来ないと、食道入口部の開大が不十分となり、そのため食道へ入りきれなかった食塊が気管へ侵入する結果となり、これを誤嚥と言います。誤嚥は食道の開大不全の他、嚥下のタイミングのズレなどでも生じます。 拡大図 |
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(図−6) 食道の蠕動運動で、食塊は食道を胃へと向かっていきます。 口蓋へしっかり押し付けられていた舌は緊張を弱め、舌骨、喉頭は下方に下がり、それと共に喉頭蓋は再び上方に上がり始めます。また、軟口蓋も元の位置に戻り始めるので、鼻腔と咽頭の交通が再開され、呼吸が再開されます。 拡大図 |
(図−7) (図−2)〜(図−6)が協調した一連の流れとして行なわれて初めて、私達は食物を嚥下することが出来ます。 |
・脳卒中後遺症 ・外傷性脳損傷 ・脳性麻痺 ・痴呆 ・パーキンソン病
・ハンチントン病 ・ウィルソン病 ・筋萎縮性側索硬化症 ・多発性硬化症 ・脳腫瘍
・重症筋無力症 ・頭頸部領域ガン ・薬剤 ・歯牙の喪失等による咀嚼力の低下
■嚥下運動は次の4つの段階に分けられます。
(出典:Logemann著、 道 健一他監訳、「摂食・嚥下障害」 医歯薬出版 )
口 腔 期 障 害 |
・唇の開閉、舌の動き、咀嚼に障害がある場合。 これらに障害があると「食物が口からこぼれる」、「うまく噛むことができない」、「噛んだ食物を 飲み込める状態(食隗)にすることが出来ない」、「喉へ送り込むことが困難」などの問題が発 生します。 |
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咽 頭 期 障 害 |
・喉へ送り込まれた食物を上手く飲み込むことが困難な場合。 「なかなかゴックンができない」、「喉にひっかかる」、「飲み込む前や後にむせる」、「飲み込め ないために唇から食物がこぼれる」などの症状があります。 口腔期障害と違って、目で見て確認することが出来ないため、どの部位にどのような障害があ るかを見極めるのが難しくなります。 |