「長崎嚥下リハビリテーション研究会」では、高齢社会の進展にともない増加する高齢者特有の脳血管疾患、認知症、神経難病等を背景とした摂食・嚥下障害を抱える患者さんとその家族に対する支援の有りかたを模索してきましたが、現在以下のような新たな支援システムを運用中です。
このシステムでは、「摂食・嚥下サポーター」と称する、摂食・嚥下障害についての基礎的な知識と理解を持ち、嚥下障害の患者さんやその家族を支えるボランティアの養成と、「摂食・嚥下コーディネーター」と称する、ある程度の医療・福祉について体系的で幅広い専門的な知識を身につけた方で相談(コンサルテーション)、調整(他職種との連携)の役割を担うスタッフの養成の二段階の支援システムを展開中で、その運用のために年間を通じて定例の研修会を開催しています。これは継続的、体系的、実践的な研修こそが一定の質を確保することに繋がるとの経験に基づくコンセプトに支えられた研修システムであると考えるからです。
このような資格認定制度の創設はわが国では初めての制度です。
摂食・嚥下障害についての基礎的な知識と理解を持ち、嚥下障害の患者さんやその家族を支えるボランティア*の人です。
*ボランティア* :ここでいうボランティアとは、一般市民(または地域住民)という意味ではなく、医療・介護関連の施設に勤務するスタッフで、この活動に賛同した方々をいう。
「摂食・嚥下サポーター養成講座」を受けた人が「摂食・嚥下サポーター」です。
摂食・嚥下サポーターは摂食・嚥下障害の人や家族を温かく見守る応援者になってもらいます。そのうえで、自分のできる範囲で活動できればいいのです。たとえば、友人や家族にその知識を伝える、摂食・嚥下障害になった人や家族の気持ちを理解するよう努める、隣人としてできる範囲で手助けをする、など活動内容は人それぞれです。
摂食・嚥下コーディネーターとは、嚥下障害に関する医療サービスを提供する側(医療関係者)と医療サービスを受ける側(患者さん、ご家族を含めたすべての医療消費者)の間に立って、療養上の情報や介護に関する情報等を患者さん本人とご家族に説明し、また逆に患者本人や家族の希望を医療者側に伝えるといったパイプ役となり、「立場の違い」から出来る隙間を埋める新しい形態のコーディネーターです。
摂食・嚥下コーディネーターとは、医療・福祉について体系的で幅広い知識を身につけ、各種の専門職と連携をとりながら患者さん本人およびその家族に、診療に関する情報を適切に伝え、嚥下訓練や口腔ケアの具体的な説明と指導を行なったり、適切な食事介助の方法をアドバイスし、福祉用具(食事自助具)や嚥下食などについても情報提供をします。
さらに同時に患者さん本人およびその家族の希望を医療側に伝え、その悩みに対応するといった精神面でのケアにも対応します。
従来、医療現場における嚥下障害患者へのサポートは看護師やST等が行ってきたが、今回新たに「摂食・嚥下コーディネーター」の資格制度を発足させる必要性はどこにあるのだろうか。
煎じつめれば、チームアプローチや情報提供の際のキーマンとしての役割が求められてくるのであろうが、具体的にその役割をみてみよう。
一般的に患者は、発病〜入院〜退院〜施設または在宅といった転帰をたどるが、嚥下障害患者の場合も例外ではない、この際に患者やその家族に対処するのは医師を除けば、医療現場では看護師やSTや栄養職といった医療スタッフであり、施設ではケアスタッフであろう。
患者自身やその家族にとって症状や状態は変化するのであるが、その時々の説明を果たす担当者は状況や施設環境によって変化する。このような際に、一定の担当者が存在し説明に当たり、患者やその家族からの相談に対応することができれば、患者自身やその家族にとっても、大きな安心と信頼を得ることが可能になると考えられる。
つまり摂食・嚥下コーディネーターの役割は、患者自身やその家族に連続的に関わりを持つことで患者さんやその家族へのサポートを可能にすることであろう。
嚥下障害が大なり小なり改善され在宅へ移行する際には、患者のそれぞれの機能や介護度等の状況に応じた生活支援のためのプログラムが必要になってくる。
特に、嚥下障害患者にとっては、入院中に指導を受けた嚥下訓練の内容や食事や経口摂取に関する注意事項などを在宅での日常的な療養生活の中で継続していく必要があるが、素人であるので理解は十分ではない。また家族にとっても医療スタッフに代われるというものでもない。したがって摂食・嚥下コーディネーターが断続的に介入することで在宅での療養生活を安全で効果的なものにすることが可能となる。つまり、在宅療養環境の整備担当者としての役割であるが、常に医学的安定性と介護負担の軽減を考慮して、場合によっては目標を改善から維持へ軌道修正することも必要であるので、摂食・嚥下コーディネーターとしては幅広い知識が求められることになる。
また、医療・福祉情報の提供や療養相談に応じることも重要な役割である。
今までの医療者側にお任せの治療から、患者は治療法の選択を迫られ自己決定を求められる時代の流れの中で、医学的な専門知識も無く、多くの情報が氾濫する中で個人の判断にはおのずと限界があります。
このような状況のなかで、摂食・嚥下コーディネーターのような役割こそ中立な立場でのサポートが可能になると思われる。
患者は心のよりどころを求めていて、患者自身にとって「その気持ちを理解してくれる友人や家族の必要性」は精神的な安定を図る上でも重要なマンパワーである。このような精神的・心理的な問題に対して、患者としてではなくクライエントとして接することは摂食・嚥下コーディネーターだからこそ可能になる。
さらに精神的な安定が確保されることによって、患者のQOLも向上するとおもわれる。
「摂食・嚥下コーディネーター」の必要性についての認識は高まりつつあると思われるが、それでは関連団体が共同で育成事業を進める意義はどこにあるのであろうか。
嚥下障害患者の病態や障害像はさまざまであり、例えば医療や看護の必要性もあれば、時には栄養面のサポートが求められる場合など必要なサポートの内容も多岐におよぶ。その多様なニーズに対応するためには、さまざまな職種の連携が重要である。
嚥下障害患者やその家族にとって、病状に関すること、リハビリに関すること、食事面の悩みなど、症状の改善に応じたさまざまなニーズが生まれてくる。
そのような状況に適切にまた正確に対応するためには、多くの職種の関わりが求められてくる。
嚥下障害はその症状の改善の過程においてはさまざまな病態像を呈する。例えば、誤嚥が認められるような重度の際には、間接訓練や口腔ケアが必要になってきて、看護師やSTが活躍するような場合もあれば、リハの効果があらわれ、経口摂取が可能になれば栄養士の役割が大きくなってくる。さらに在宅での療養が可能になれば、訪問担当のスタッフによるアドバイスが求められることも多くなってくる。
このようにそれぞれの専門性に基づくサービスの提供が重要である。
嚥下障害患者やその家族にとって、病院での医療スタッフの説明やリハの進行などをわかりやすく解説し、伝達するといった役割、さらには施設に入所した際にも、継続するリハや食事に関する問題点などの指導や相談といった役割などを担当するスタッフが時と場所を問わず常に必要である。
患者自身や家族は、たえず不安や悩みをかけているので、このような問題にシームレスに対処できるスタッフはさまざまな職種のものがその役割を担わなければならないであろう。
摂食・嚥下コーディネーターの資格認定に際しては、それぞれに専門性の高い団体が参加することで、資格認定のクオリティが確保され信頼性が向上する。
「摂食・嚥下サポーター」「摂食・嚥下コーディネーター」の認定制度の概要(PDF)