嚥下食(2)

食べやすくするための工夫

嚥下障害の方が食べやすい食事を作るには、どこに障害があってうまく食べることが出来ないかによって、調理の仕方を変える必要があります。基本的には障害のある部位の機能をカバーするような調理形態にしますが、嚥下障害は障害の部位が単独ではなく重複している頻度が高く、更に覚醒や全身状態、精神状態によっても症状の出方が違ってくるので注意が必要です。そのために嚥下食のテクスチャーを明確に区分することは困難です。嚥下食を作る時の主役は適した食材。脇役はテクスチャーを調整する澱粉類や増粘剤、ゼラチン、寒天などのゲル化剤です。それらを上手に使って誤嚥を起こしにくく、食べて美味しい嚥下食を提供することが望まれます。

障害別嚥下食の特徴

  咽頭期障害なし〜軽度 咽頭期障害中度〜重度
口腔期障害
なし〜軽度
  • 通常の食事より、やや軟らかいもの。
  • ある程度の歯ごたえは必要。
  • 食べにくい物(パサパサ、パラパラ、カサカサ、ベタベタした物、硬すぎるもの)は避けるのが原則。
  • ゼリー、ピューレなどの半固形物。
  • 飲み込みの反射がおきるのが遅いので、サラサラした物、滑りの良すぎる物は適さない。
  • 液体には硬めにトロミをつける。
口腔期障害
中度〜重度
  • 咀嚼しやすく軟らかい半固形物。
  • 適度に水分や油分を含み、滑らかなもの。
  • 貼り付きやすいもの、もたつく物は適さない。
  • 液体は問題ないことが多いが、飲み込む前にムセなどの症状がある場合には、少しトロミをつけたほうが良い。
  • 軟らかいゼリー状のもの。
  • 口に入れた時、すぐに飲み込める状態(食隗)になっているもの。
  • 液体には軟らかめにトロミをつける。
  • 誤嚥の危険性が高いので、摂食には充分気をつける必要がある。

※この分類はあくまでも目安です。患者さんの障害の程度や症状は様々ですし、その時々の全身状態や意識レベル、食欲などでも嚥下能力に違いがでますので、患者さんのその時の状態に応じて臨機応変に対処することが必要です。


障害別調理の際の注意点

≪咀嚼に問題がある場合≫
 ある程度軟らかく、舌と口蓋でたやすく押しつぶせるよう調理する。

調理形態としては一般的に焼いたり炒めたりしたものより、軟らかく煮たものが適しています。噛めないからという理由で食材を細かく刻むと、かえって咀嚼し辛くなります。食材は適当な厚みがあったほうが舌と口蓋での押しつぶしが容易です。

≪咽頭への送り込みがうまくいかない場合≫
 なめらかで変形しやすく、且つすべりをよくする。

油脂、生クリームなどを食材に混ぜるとなめらかになります。野菜の和え物の場合は、ごま和えではなく白和えにする。食材をマヨネーズで和える。片栗粉、増粘剤などでトロミをつける。ゼラチンや寒天等を用いてゼリー状にするなどちょっとした工夫で送り込みがしやすくなります。

≪水分でむせる場合≫
 粘性のある液体にする。液体ではなく固体として摂取する。

水分に増粘剤などを用いてトロミをつけることにより咽頭へ落ちるスピードを遅くすることで、うまく水分摂取が出来る場合があります。どの程度のトロミをつければうまくいくかというのは、患者さんの症状の程度によります。お茶ではむせるけれど牛乳ではむせないなど、ほんのわずかなトロミの差で変化が出たりします。トロミをつけ過ぎるとかえってベタベタして飲みにくくなったり、水分特有の食感が損なわれるので、トロミの付けすぎには注意する必要があります。トロミをつけてもむせたり、食感が好まれない場合には、ゼラチンや寒天ペクチン等を用いて水分をゼリー状にして摂取する方法もあります。

≪なかなか飲み込めない場合≫
 変形しながらゆっくり咽頭へ落ちていく軟らかめのゼリ状ーやピューレ状様の調理形態にする。

ある程度の滑りの良さと軟らかさが必要ですが、滑りが良すぎるとムセや誤嚥の原因になります。また、食道の通りが悪い患者さんの場合には、ゼリー状に固めたものより、トロミを付けた物の方が良い場合があります。


食品群別食べやすい食品と調理の工夫

(資料提供:札幌愛全病院 管理栄養士・斉藤郁子氏による)
  障害が軽度 障害が中程度
魚類 小骨の少ない魚、はんぺんが適当で、脂肪や水分の多い魚が加熱しても固くなりづらい。蒸し魚・焼き魚・煮魚にしてほぐしたり、フードカッターを使う。身の柔らかい魚はそのまま食べられる。 蒸し魚・焼き魚・煮魚に調理した魚をミキサーにかける。油の無い魚は、サラダ油やしそオイル、時にはマヨネーズを加える。だし汁やスープにゲル化剤を溶かし、均等に混ぜ冷やし、ゼリーにする。経口可能で障害が重度の時にはゼラチンでソフトに固める。
一日1個程度は卵料理を加える。温泉卵・卵豆腐・茶碗蒸・プリンやカスタードクリーム等が良い。 卵豆腐・空や蒸しはだし汁で固さを調整しソフトに作る。障害の程度により、葛、でんぷんでとろみを添える。
大豆豆腐 木綿豆腐と絹ごし豆腐は飲み込みやすさが少し違います。 絹ごし豆腐が良い。障害が重度の時には豆乳をゼラチンでソフトに固める。
赤身より脂があるほうが柔らかい。二度挽きの挽肉にみじん切りやすりおろした玉ねぎ、人参、つなぎにパン粉、牛乳を入れ、焼く、蒸す、揚げ煮など、柔らかくしてあげる。焼く時は強火は固くなるので注意する。 柔らかく調理したものをスープやだし汁を入れてミキサーにかけゲル化剤を溶かし固める。障害が重度の時には蒸した鶏肉などをミキサーにかけてこし、ホイップした生クリームと溶かしたゼラチン液を混ぜ、柔らかいムース状にする。
乳製品 牛乳でむせる人は澱粉や増粘剤でとろみをつける。牛乳は、シチュー・グラタンに使う。ヨーグルトはそのままでも食べやすい。 牛乳・ヨーグルトはゼリーにする。シチュー、グラタンはミキサーにかける。障害が重度の時は水分を多くし、柔らかいゼリーにする。
芋類 たっぷりのだし汁で柔らかく煮る。煮汁が少ないと喉つまりを起こしやすい。マヨネーズやバターを混ぜるとのどごしが良い。大和いも・長芋はおろしも食べる。 出来上がった料理にだし汁を加えてミキサーにかけ増粘剤でとろみを調整する。
障害が重度の時には水分を多くし柔らかいゼリーにする。
野菜 大根・人参・玉ねぎ・かぶ・キャベツ・カリフラワー・ブロッコリー・白菜等が良く使う野菜である。生ではキュウリ・大根はすりおろして使うと良い。葉物野菜は口の中に張り付きやすいので、柔らかく茹で細かく刻んでとろみをつける。 出来上がった料理をだし汁を加えてミキサーにかけ増粘剤で調整する。すりおろした野菜は、ジュースの部分を増粘剤でとろみをつける。
障害が重度の時には水分を多くし柔らかいゼリーにする。
果物 酸味のきつくない果肉の柔らかい熟したもの。切り方、ほぐし方は障害にあわせてつくる。リンゴや梨はコンポートにすると柔らかく食べられる。 ジュースにして増粘剤でとろみをつけるか、ゲル化剤でゼリーにする。障害が重度の時には水分を多くし、柔らかいゼリーにする。
穀類 ご飯は水を多くして柔らかく炊く。粥はゆっくり時間をかけて炊き上げ、もったりした全粥がよい。パンは一口ずつミルクに浸しながら食べると食べやすい。麺類はやわらかく調理し、すすらなくても良い長さに切ると食べやすい。 重湯や粥ミキサーが良い。
障害が重度の時は重湯ゼリーにする。
パンはパン粥にする。
軟らかくゆでたそうめんを薄めの麺つゆごとゲル化剤で寄せると食べやすい。
油脂類 適度のあぶらはのどごしをよくするので、魚や肉などの調理に使う。油はA・D・E・Kなどの脂溶性ビタミンの吸収を良くする。 のどごしを良くするので適度に使う。
また、脂溶性ビタミンの吸収の為にも必要。


食欲を高める条件

食欲を高める条件としては、
    1.好み、2.味付け、3.盛り付け(見た目)、4.香り、5.温度、などがあります。

好み 好みは食欲を左右する最も大きな要因と言えるかもしれません。
好物であれば、嚥下障害患者にとって本当は食べにくいはずの調理形態のものでも、むせたり、喉につかえたりせずに食べれることがあります。
味付け 味付けについて言えば、それぞれ好みの味付けというものがあるので難しいのですが、嚥下障害患者や、痴呆により摂食から嚥下という流れがスムーズにいかない方の場合には、やや濃い目の味付けがよい場合もあります。味付けを濃くすることでお口の中の感覚器官に強く働きかけ、刺激を伝えやすくしたり、唾液の分泌量が増えることで食隗形成や嚥下がしやすくなります。
盛り付け 盛り付け(見た目)も大切です。嚥下食は細かく刻んであったり、ペースト状だったりで、見た目があまり良くありません。いかにも美味しくなさそうだったら食欲も失せてしまいます。出来るだけ見栄え良く、食欲をそそる盛り付けにする工夫も必要です。
香り 香りは美味しさの60%を占めるといわれています。嚥下障害食でいくつかの食材を混ぜ合わせた場合などは特に味がぼやけやすいものです。シーズニングなどで表面に香りをつけることで、食欲増進に繋がったりもします。
温度 温度も大切です。食事の温度は体温と20℃違う温度帯が最も適していると言われていますが、温かいものは温かく、冷たいものは冷たくいただくのが、食事を美味しくいただくためのひとつの条件です。また、体温との温度差が大きいほうが、それだけ刺激が強く伝わり、嚥下反射が誘発されやすくなります。

食欲を高める条件としては以上のような事が考えられますが、このような事以外にも、その時の体力、気分、意識レベルなど様々なことが要因として関わってきます。食欲は嚥下を誘発する非常に大きな因子です。調理の形態以外にも、散歩や軽い運動などで食欲増進や意識の覚醒を図ることも有効です。 

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